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 『Outdoor』 連載バックナンバー 
 

 ◆ 第23回 雑魚釣り名人、大いに語るの巻 ◆

釣り坊主  先日テレビを見ていたら、クチジロに魅せられたひとりの男を特集していた。クチジロとはイシガキダイの大物の俗称で、口の周りが白くなることからそういわれている。釣るのは至難の技で、僕も今までに口の周りが白くなりかけたヤツをマグレで1匹釣りあげたことがあるくらい。イシダイよりもさらに幻なんじゃないかと思う。

 で、なんでそんなに釣れないクチジロにハマってるのかというと、やはりその引きに魅力があるという。イシダイなんか目じゃないくらい引くそうだ。しかし、なかなか釣れない。あまりに釣れないので同行の人がメジナに乗り換えバカバカ50センチ級を上げても、その人はガンとしてクチジロ一点。決して浮気をせずに、クチジロが来るのをじっと辛抱強く待つ。

 本人いわく「雑魚100匹より、クチジロ1匹」。

 男の名は佐藤守。面構えもじつにかっこいい。僕は一発でファンになっちゃった。僕の釣りはどちらかというと、雑魚でもなんでもいいから人より多く、しかも大きいのをバカバカ釣りたい!と、じつに意地汚い釣りなので、こうしたこだわりを持ち、信念を貫く人を見ると尊敬しちゃうのだ。

 たとえば、僕ならイシダイ釣りに行って本命がなかなか釣れず、脇でメジナなんかが釣れまくってると、絶対そっちに行っちゃうもんね。そうなるとイシダイなんてどうでもよくなっちゃう。節操がないといわれればそれまでだけど、早い話、僕の釣りには、本命も外道もない。基本的に釣れりゃーいいわけで、小さいころアブラハヤを釣って喜んでたガキがそのまま大人になっているのだ。だから、僕は人から雑魚と呼ばれてるサカナ釣りにけっこうハマったことがある。今でも真冬にわざわざイクラを持ってアブラハヤを釣りに行くくらいだもんね。人にとっちゃー雑魚でも、オイラにとっては楽しいのである。

 ただし、言い訳じゃないけど、自称「雑魚釣り名人」としてひとこと言わせていただくと、雑魚もそれなりの方法を用いれば、大いに楽しめるのである。ときとして、本命魚を食ってしまうくらい楽しいときがある。そうなるともう雑魚とはいえない。立派な釣り対象魚である。僕はスポーツフィッシングという言葉が大嫌い。だけど「食う」もしくは「飼う」という僕のスタイルからはそれ、単純に楽しむということで、大いにハマった釣りをふたつご紹介しよう。


 まずは、ボラ。

 この魚は、釣れてもあまり歓迎されず、どちらかというと、食うとか、飼うなんてことにはあまり縁がない魚だ。まあ、ホントは場所さえよければ刺身だってうまいんだろうし、カラスミってくらいだからそれなりにいいんだけど、でも普段はあまり歓迎されるほうではない。

 しかし、ひとたびこいつを柔らかいロッドで釣ろうもんなら、ブラックバスなんか目じゃないくらい楽しめるのだ。キャッチ・アンド・リリースなんて言葉も大嫌いだけど、どうせ逃がすならこの釣りである。竿がブチ折れるくらいのスリルを存分に味わえる。

 僕はこいつをフライロッドで釣るのがいちばん好きだ。釣り方はじつにカンタン。フライのラインの先に3号の糸を10メートルほど結び、大きめのウキをセットし、ウキ下1ヒロに伊勢尼の5〜7号の鉤を付ける。エサは安い刺身で充分。そいつをヤツが跳ねているあたりに投げ、しばらくアタリを待つとガツンと来る。なんの駆け引きもいらない。すぐに釣れちゃう。これだけでも楽しいのに、ここからがさらにこの釣りの楽しいところだ。

 とりかく引くといったら、こんなに走って引く魚も珍しい。そりゃ、ブリなどの青モノ系はみなこうした引きをするけど、防波堤でこんなに気軽に釣れる魚じゃない。その点ボラはいつでも僕を待っていてくれるのだ。じつにありがたいのである。

 「ギューッ」という糸鳴りが終始続き、手元に来るまであきらめない。魚を掛けてから釣り上げるまでこんなに興奮し、手軽に楽しめる釣りを僕はほかに知らない。初めて釣りをするギャルや子供がこの釣りをすると大興奮するのもうなずける。

 一度60センチ近いのが掛かり、フライロッドがブチ折れる寸前までノサれ、30分以上かけてようやく上げたことがあったけど、あんときはうれしかったなぁ。以来、そうとうの大物が来ても上げる自信がついちゃったもんね。

 こうして遊んでいるうちに、知らず知らずのうちに大物とのやりとりがうまくなる。八久和川で大イワナを掛けたとき、この経験が大いに役に立ったのだ。瓢箪から駒である。

 最近じゃ、すっかりこのボラ釣りもしなくなっちゃったけど、大物釣りをめざす初心者にはおすすめの釣りである。なんせ、楽しんでいるうちに腕が上達するのだ。こんなステキなことはないのである。ぜひ一度トライしてくだされ。もう気やすく雑魚と呼べなくなるでしょう。


 ボラ釣りを雑魚釣りの東の横綱とするならば、西の横綱は、なんといってもメダカだろう。

 「メダカ? そんなもんが釣れるの?」

 そう思われるかたもおられようが、確かにメダカ釣りなのである。

 まぁ、メダカは確実に「食う」魚じゃないし、飼うにしても、グッピーとかネオンテトラなんかのほうがキラキラしてる。そういった意味でも、釣りにおいてはまったく対象魚とはなりえない魚だろう。つまり、釣り人からするとメダカちゃんにはわるいけど確実に「雑魚」なのである。まして、こいつは先ほどのボラと違い、引きという点では、まったくお話しになんない。ワカサギちゃんの何十分の一も引かないのだ。竿先が1ミリほどしなればいいほうだろう。

 では、なぜにメダカ釣りが雑魚釣りの西の横綱か?

 やはり、おもしろいのである。この釣りは、引きなどを度外視して興奮する。むちゃくちゃ熱中するのだ。

 それではまずメダカ釣りのタックルをご紹介しよう。竿はワカサギ用の先が細いヤツ。これは渓流竿の先の部分でも代用がきく。それに0.3号の糸を結びつけ、袖鉤の3〜5号をセットして完了。これだけ。ウキも目印もオモリもいらない。カンタンである。

 エサは赤虫と呼ばれる奇妙キテレツな虫だ。僕はいまだにこの虫の正体がわからない。釣りの本なんかではタナゴ釣りのエサとして登場し、釣り具屋でも売ってるのでけっこうポピュラーなエサであるんだけど、正体不明なのである。まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど、これをものの本に出てるように大根の輪切りの上に乗せて鉤に付ける。あとは釣るだけである。

 さぁ、お立ち会い。ここからこの釣りにハマる妙があるのだ。

 まずメダカのいるポイントに近づき、座を決める。僕が通ったポイントはたまりだったので、岸から少し水の中に入ったところにいすを置き、釣りの態勢を整える。そこでジッとしてると散っていたメダカが戻ってくる。いよいよ釣り開始である。まず、そーっとエサの赤虫を水中に垂らす。ゆっくりとだ。するとクネクネと漂う赤虫にメダカが近づく。目を皿のように凝らしてエサを見つめる。メダカが赤虫をつっつく。数匹が1匹の赤虫に群がる。

 そしてころ合いを見て、僕は一気にアワセる。メダカが空中でしぶきを上げ、目の前のバケツに納まる。バケツの中には何事が起きたのか? といった顔のメダカちゃんが泳ぐ。思わずニンマリである。

 いかがかな? 察しのいいかたはこれだけで「ははーん」てなもんだろう。

 この釣りの最大の妙は、鉤にメダカを掛けることじゃない。メダカが赤虫にがっちりと食いついてるわずかな瞬間を見極め、それと気がつきヤツらがエサを放すまでの瞬間に抜き上げる、というまさに光速度不変の法則ローレンツ変換な釣りなのである。

 しかし、これがなかなかうまくいかない。よほどガッチリとくわえこんでいる瞬間でないと、上がらない。最初のころはまったく要領がつかめず、何十回も空振り。全然掛からなかったものだ。

 そもそもこの釣りを知ったのはテレビの番組においてである。ニュースの中のちょっとした特集で取り上げられており、食事中の僕は、箸を置いて見入ってしまった。画面の向こうでは、ヒョイ、ヒョイ釣り上げるおじいちゃんが数人映っており、「こりゃ、おもしろそうじゃん」となったのは、言うまでもない。

 さっそく次の日、猿マネをして、昔からメダカのいる場所へと飛んでみたまではよかったけど、そこからは前述のごとく、連続三振記録を爆進してしまったのだ。

 しかし何事もカンタンそうに見えて、どっこいそうはいかないものほどハマりやすくおもしろいモノはない。オイラはすっかりこの釣りに夢中になった。通い出して、数回目のある日のことだ。偶然だろうけど、オイラの赤虫にメダカが掛かった。見るとちゃんと赤虫に食いついてる。うれしかったなぁ。初めて自分が巻いたフライでヤマメを釣ったときくらい喜んじゃった。

 よくしたもんで、この1匹が呼び水となり、あとはおもしろいように連れ出した。こうなると止まらなくなる。

 その昔、江戸時代の人たちは、いろんな趣向を凝らしてタナゴ釣りに凝ったっていうけど、その気持ちもわかるぜオイラはよー。

 「食う」とか「引く」とか「飼う」とか、一見釣りには必要不可欠な要素に思えるものも、なきゃーないでそれなりに楽しめるもんである。


 釣りとは、釣れなきゃ釣れないでハマり、釣れりゃー釣れたでおもしろい。

 不思議なモンである。

(『Outdoor』 1999年11月号掲載)

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