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 『Outdoor』 連載バックナンバー 
 

 ◆ 第14回 時効につき・・・の巻 ◆

釣り坊主  モリ、投網、バッテリー、川干し、うーん、どれもこれも蜜の味である。さすがに毒流しだけはやらなかったけど、これらは僕が一通りやってきた”バキューン”的、若気の至りである。勿論捕まれば、御用になるんだけど、もうかなりフルーイ話だから時効なのだ。だから怖いモノはないので、ここでちょろっと漏らしちゃオット。

 釣り以外で魚を獲る方法で、最初に覚えたのがモリである。駄菓子屋で売ってるモリをヤスリで磨き、自転車のチューブを切って柄の部分につけて、使うのである。

 夏なんか昼間魚が釣れない時間帯に潜ると、岩の奧にいるのである。ヤマメが。そいつを自慢のモリでブッスリとやるのだ。うまく刺さると魚が暴れ、手元にブルブルと感触が伝わってきて実に気持ちがいい。狩猟本能のどこかがくすぐられてる感じである。

 一番モリにはまっていたのが中学くらいだったと思う。高校にはいると今度は投網を覚え、こっちの方が面白くなってしまい、暇さえあれば出掛けてた。投網は普段、御法度なので、人に見られない、夜、出掛けるのである。ペンライトを片手に網を担いで出掛けるんだけど、これが「オレは悪いことをしてるんだぜ」という気をそそり、たまらなくスリルがあったのだ。

 そして、目星をつけておいたポイントに網を打ち、鮎やらヤマメやらが獲れると、無上の喜びが心の底から沸き上がったモンである。

 ほぼ時を同じくして刺し網も覚えたので、悪友のコンドーを誘っては良くツープラトンでやったのだ。

 大きな淵の下に、コンドーに刺し網を張らせておいて、僕が上から投網を打つのである。網に驚いた魚が下に逃げてまんまと刺し網に掛かるのだ。

 コイツは獲れたナー。一晩で100匹以上鮎を捕ったこともあったモン。その頃僕らの間では、投網を打ちに行くことを”漁”に行くと言っていたけど、ホントそのくらい獲れたのだ。

 夜、遅くまで漁をして、昼間高校で勉強してたんだから、ちょっとした苦学生だったよなぁ。学校の行き帰りなんかも川沿いの道を歩いて、ポイントの目星をつけていたのである。もう、二宮金次郎も逃げ出しちゃう位の熱心さだったのだ。

 まぁ、そんだけ年中行ってたから、いろんなもんが網の中に入ったよなぁ。中でも一番驚いたのが、コンドーが、

 「ウナギだー」

 なんて騒ぐから、やったと思い、二人掛かりで手で押さえたら何やら例のツルっとした感触がないのだ。変だナーと思い、ペンライトで照らしてみたらゲゲッ、なんとヘビだった。それもマムちゃんじゃないの。あぶねー、危うく食いつかれるところだったのだ。しかしこのマムちゃんもよほど運が悪かった。何を隠そう、コンドーはマムシ捕りの名人なのである。夏にバイトでマムマムちゃんを捕っていたくらい、すんごいヤツなのだ。であるからして、この、夜の珍客もコンドーにとっては大歓迎なのであった。 他にも、マス釣り大会の大物賞のマスが野生化して、巨大になり、70cm近いのが獲れたり、台風で逃げ出した錦鯉が獲れたりと、実に楽しかった。

 いろんな釣りをする僕が、鮎釣りだけはやらないので、良く人から不思議がられるんだけど、この頃の反動で、どうしても鮎は釣るモンじゃなくて獲るもんだと思っちゃうのだ。だけど、こんなこたぁ他人に言えないから、聞かれたらテキトーにお茶を濁しちゃうのだ。

必殺チキン作戦!

 その頃の”バキューン”で一番ヤバかったのが、養殖場侵入イワナぱくり事件である。これはさすがにヤバイから具体的な名前は出せないけど、傑作だったなぁ。

 事件の内容はというと、僕の家から20km程離れた山の中に、当時としては珍しくイワナの養殖をしているとこがあり、そいつを僕とコンドーがかっぱらいに行くというモノであった。最初、コンドーが計画を持ち込んできて、面白そうだったので早速二人で下見に行ったのである。バイクに乗り、山道をとろとろと行くと、その養殖場が見えてきた。人気のない場所に突然デカイ池が3つ4つ現れた。バイクを止めて何食わぬ顔で池に近づいたときである。いきなり小屋の陰にいた犬にほえまくられた。

 突然だったので、二人で飛び上がって驚いた。良く見ると全身黒毛で覆われた、甲斐犬であった。んなもんに噛まれた日にゃ、腕の一本もなくなっちゃうのだ。そのうちに奥の方から親犬みたいなオッサンが出てきたので、ヤバイと感じた僕らは、ほうほうの体で帰ってきたのだ。

 さてそれからはどうにかしてあの養殖場を襲ってやろうと、二人で計画を練った。

 まず、オッサンが魚の配達に行ってる隙を狙ってかっぱらうのはどうかという意見が出たが、それがいつかを掴むことが出来ずにボツ。いろいろ意見が出た末、犬を手なずけようと言う意見で一致した。実は前にもこの手で、桃やサクランボを頂戴することに成功しているのだ。難攻不落のサクランボ畑に住み着く、鬼のような番犬を手なずけた腕は伊達じゃないのだ。

 そうと決まれば早速、次の日、養殖場通へと向かった。手には程良くボイルされた鶏肉が・・・。

 バイクで養殖場のすぐ下まで来た僕らは、まず、素知らぬ顔で養殖池に近づいた。すると、その気配を察した例の犬がむくっと起きあがり、ガルルル言い出した。ここである。ここでメゲてはいけないのだ。僕らはあくまで君のお友達なんよってことを教えてあげなきゃいけない。すかさず、コンドーが姿勢を落として犬に近づき、そっと鶏肉を犬の方へ放った。この間、あくまで姿勢は低く、笑顔を忘れないことだ。暫く、そいつは鶏肉の周りをぐるぐるしたり、臭いをかいだりしていたけど、その内にパクッと食いついた。

 「しめたっ!!」

 二人の心の声が共鳴した。続けてすかさずコンドーが二の矢を射た。そいつはもう放られた瞬間に一口で食いついた。やったのだ。こうなりゃ半分はてなづけたも同然である。オヤジが出てくる前に、僕らはさっさと養殖場を後にした。

 次の日から、僕らは毎日犬に鶏肉をやりに行った。ただし、少しずつ時間をずらして、夕方から夜に至るまで時間を掛けた。なぜなら、事を実行するのは夜である。いくら昼間慣れたとはいえ、夜、忍び寄っていけば、どんなおバカな犬でも吠える。僕らにとっては、一回でも吠えられたらオジャンである。養殖場のオヤジに少しでも警戒されたら終わりなのだ。

 こうして、2週間ほど掛けて、ようやく犬を手なづけた僕らは、ある、月の無い晩に、一気に行動に移した。

 コンドーには鶏肉と麻袋を持たせ、僕は投網を背負ってバイクにまたがっていた。養殖場のかなり下にバイクをとめた僕らは、忍び足で近づいていった。まず、コンドーが足早に犬に近づき、鶏肉を与えた。うまく、声を出されることなくエサにパクついてくれた。

 「今だっ!!」

僕は池に近づき、低姿勢から投網を池に向かって投げた。網はきれいに弧を描いたように感じた。すかさず網を引いた手に、魚の感触が伝わってきた。一気に網を引き上げに掛かった僕は、あまりの重さに悲鳴を上げそうになり、すぐに小声でコンドーを呼び、二人掛かりでようやく引き上げた。網は魚で膨れ上がり、どう見ても2、300匹は入っていた。ビビったぼくらは半分ほど池に帰して、後の魚を持ってきた麻袋に詰めて、疾風のごとくその場を去った。心臓が口から飛び出すくらい興奮していた。後ろから追いかけられているような恐怖感と、成功の満足感が交互に去来した。コンドーが抱きかかえている麻袋が、バイクを運転している間中、背中でブルブル動いていた。

 家に帰って来て、コンドーと二人で麻袋を開け、数を数えてみた。全部で80匹以上いた。型は平均7寸クラスのヤツばかりだった。しかし、やったのだ。大成功である。

 僕はコンドーと二人、手を握り合って成功の味をかみしめた。

 その後、二人で魚をどうするか考え、とりあえずハラワタを出して、明日燻製にしようと言うことになり、遅くまで掛かってハラワタを出した。

 次の日の燻製がうまくいったかどうかの記憶は定かじゃないけど、あまり記憶に残ってないって事は、大してうまく行かなかったんだろう。

 しかし、今思い出しても実にスリルがあって楽しかったなぁ。中学から高校時代なんて、しょっちゅうこんな事ばっかやってたもんなぁ。それが今じゃ、お坊さんだよ。笑っちゃうよなぁ。世も末だよなぁ。

 その後、あの養殖場もブッつぶれちゃった。あのオヤジ、元気にやってるかなぁ。もしどこかで、また養殖場やってたら応援しちゃうよなぁ。

 ガンバレよー、オッチャン。あんまり犬にばかり頼んじゃねーゾー。

 今でも、たまに投網を打つとき、このときのことが思い出されるのだ。

 オット、いけねー・・・。

(『Outdoor』 1999年5月号掲載)

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